中小企業診断士試験の一次試験(企業経営理論)によく出る、統合・合併・買収に関する用語をまとめてみました。(ここに記載した内容以外にも、出題論点はあるので参考までに。)
毎年、1~2問ほど出題されます。
企業経営理論全般に言える話ですが、用語の暗記だけでは解答が難しく、より深い理解が求められます。また、問題文に抽象的な表現が多いので、ある程度の慣れが必要です。
過去問を繰り返し解き、問題文に慣れ、知識の定着と応用力を高めるようにしましょう。
二次試験の事例問題では、中小企業や小規模な企業が事例となるため、統合や買収に関する論点が問われることはあまりありません。
統合の種類
統合には以下の2種類がある。実際は合併や買収を伴う場合も多い。
垂直統合
サプライチェーン(原材料→製造→物流→販売)に沿って、縦方向の業務を1つの企業にまとめること
垂直統合型の企業の代表的な例は、トヨタ自動車などの自動車メーカーやユニクロなど大手衣料品メーカーがあげられる。
垂直統合の期待される効果は、以下のようなものがある。
- 自前の調達能力、販路を確保することで、調達価格、販売コストの低減
- エンドユーザーへのアプローチから、顧客のニーズの正確な把握が容易になる
- 全体をコントロールすることによる、ブランド力の向上
水平統合
同種の分野、事業範囲の拡大をすること
水平統合の例としては、百貨店業界で三越と伊勢丹の合併、松坂屋と大丸の合併、コンビニのサークルKサンクスとファミリーマートの吸収合併、水産加工大手のマルハとチニロの合併などがある。
水平統合の期待される効果は、以下のようなものがある。
- マーケットシェア、製品ラインナップの拡大
- 販売数増による購買力の向上
M & A
M&Aとは、Mergers & Acquisitions の略で、企業が行う合併・買収のこと。
事業の再編、拡大をスピーディーに行え、競争力を強化する経営手法の1つ。
メリット | デメリット |
---|---|
短時間で事業の再編、拡大を行える 自社の弱みを効率よく補強できる | 意思決定がスムーズにいかないことがある 人事労務面で融合がスムーズにいかないことがある |
合併
2つ以上の企業を1つにすること。
特定の事業だけではなく、会社全体の資産や負債を統合する。合併には、吸収合併と新設合併の2種類がある。
合併の種類 | 内容 |
---|---|
吸収合併 | A社がB社を吸収し、B社は消滅 |
新設合併 | A社とB社でC社を新設し、A社とB社は消滅 |
買収
株式の取得や事業譲渡を経て、会社の経営権を得ること
買収の種類 | 内容 |
---|---|
株式取得 | 企業の発行済み株式を取得して子会社化する 新株発行増資の引き受けで経営権を握る 株式交換により株式を取得し子会社化する |
事業譲渡 | 特定の事業を譲渡する |
ジョイントベンチャー
複数の企業が共同で出資して、新たな企業(合弁会社)を設立する
具体的な例としては、ビックカメラとユニクロの共同によるビックロやLINEとサイバーエージェント、グリーのゲーム事業のジョイントベンチャーなどなど。
戦略的提携(アライアンス)
複数の企業が契約に基づいて協力する
自社のコア事業に経営資源を集中させることができ、買収などと比較すると柔軟性に優れ、将来の事業環境の変化に対応しやすいという点がある。
TLO
大学の基礎研究とその成果を企業へ仲介する機能
大学にTLO(Technology Licensing Organization)が置かれ、大学の研究成果を偉業に移転する。
産学連携で、大学は研究成果を実用化することができ、企業は自社資源を有効活用できるメリットがある。
産業クラスター
ある特定分野の専門性の高い関連企業や関連機関が地理的に集中し、競争、協力している状態のこと。
例えば、ハイテク産業のシリコンバレーや映画エンターテイメントのハリウッドなどがあげられる。
M&Aの手法
M&Aの株式を取得する方法として、主に以下のようなものがある。
TOB(Take Over Bid)
株式公開買付けと呼ばれる、買収側企業が株式市場を通さずに株主から直接買い取る方法。
買付け企業の賛同を得ていない場合は、敵対的買収となる。
LBO(Leveraged Buy Out)
買収者が買収先企業の資産などを担保に銀行借入や社債発行を行い、その資金で相手を買収する方法。
過去の事例としては、ソフトバンクによるボーダフォン日本法人の買収では、1兆7000億円という破格での買収、そのうちの1兆円がLBOによる調達と言われている。
MBO(Management Buy Out)
会社の経営陣が、自社の株式を株主から譲渡されたり、事業の譲渡を受け経営権を取得する方法
上場廃止する際や、敵対的買収の対抗策として取られることもある。
MBI(Management Buy In)
MBOのひとつで、投資家や投資ファンドが企業を買収し、買収先の企業の再建を図る方法
MBOとの違いは、外部から経営陣を招き入れ、経営再建を図るという点。
買収防止策
主な買収防止策として、以下のようなものがある。
ポイズンピル
買収者以外の株主に新株が発行され、敵対的買収者の株式保有率を低下させる方法
敵対的買収に対する抑止力、買収が行われている最中の防衛策として有効な手段。ただ、既存株主から見ると、1株当たりの価値が低下することなどからデメリットが多く反対される恐れがある。
過去に、ニッポン放送に対するライブドアの敵対的買収では、ニッポン放送が防衛策としてポイズンピルを発動しグループ企業(フジテレビ)に4720万株という大量の新株予約権を発行した例がある。その際、ニッポン放送の既存株主が反発し新株発行の差し止め請求がなされた。
クラウンジュエル
被買収企業の保有する重要財産や事業を第三者に譲渡したり、分社化することで企業の魅力を下げ、買収者の購買意欲を削ぐ方法
別名「焦土作戦」とも呼ばれ、企業価値そのものを損なうことになるため、既存株主から強い反発が予想されるため実行されることは少ない。
過去に、ニッポン放送に対するライブドアの敵対的買収では、ニッポン放送が保有するフジテレビなどの株式を売却しようとした例がある。(実際には売却はしていない)
ゴールデンパラシュート
取締役に巨額の退職金を支払うように定めておくことで、敵対的買収を抑止しようとする方法
アメリカでは大手企業の半数以上が導入しているが、日本での導入事例はほとんどない。株主から見ると、経営陣の自己保身と捉えられやすく、株主の承認を得難いというデメリットもある。
ホワイトナイト
友好的な企業や投資家に買収を求める方法
過去2006年に、明星食品に対して米系投資ファンド スティールが仕掛けた敵対的買収(TOB)に、同業の日清食品が友好的TOBを実施し敵対的買収を上回る額で買収、明星食品は日清食品の完全子会社となった。
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